家に帰ると、当たり前だけど暗かった。
 期待していたわけではないけど、やっぱりなんだか寂しくて、そのまま玄関に鍵を掛ける。
 着替えを済ませて、夕食の準備。準備といっても作ってもらっていたものを温めるだけ。それでも美味しいから、アッシュはすごい。
 夕飯食べて、お風呂に入って。
 とりあえず必要な事凡て終えたら、居間に居る必要がなくなってしまって、部屋に篭もった。その前に玄関の鍵を確認して、火の確認もする。
 部屋に篭もったところでやることもなく、ただ灯りもつけずにぼーっと過ごす。
 そういえば、アッシュに借りた本があった。
 寝台から起き上がって、机を見る。厚めの本ではあるが、アッシュの部屋にある他の其れと比べれば可愛いものだった。

 暇つぶしにはなるだろう、って言われたんだった。
 暇になることが見透かされてる。
 可笑しい。
 でも仕方ない、本当に、一人って暇だから。

 ガイの家に行く気も起きなかったし。外に出る気もなかった。
 寝台に転がって、頁をめくる。読めないことに慌ててスタンドライトを点けた。
 おそらく読みやすいよう、アッシュが選んだのだろうけれど。アッシュが選んだにしては珍しいその小説へは、字面を追うだけでまったく傾倒出来なかった。
 諦めをつけて、栞を挟んで丁寧に机に戻す。乱暴に扱った日には怒鳴られてしまう。まあそのうち読む機会があるだろう。

 また、退屈になる。
 一人って、家が広い。
 二人でも広い家だけど、一人だと尚更だ。温度が違う。一人いないだけで、体温が一人分ないだけで、すごくすごく冷たく感じる。
 仕方ない事だし、これが初めてではないけれど。何度だって慣れないから、仕方ない。
 解決策なんていうのは時間がすぎることしかないから、如何しようも、ない。

 早く時間が過ぎちまえばいいのに……。

 明日になって、夕方まで頑張れば、アッシュは帰ってくる。
 早く、早く。
 そう思ったところで、思うからこそ、時間が尚更遅く感じる。カチカチとアナログ時計の音がして、それがすごくすごく耳障りに感じる。
 ひとり。
 寂しい。
 ひとりぼっち。

 ……アッシュ。

 もう寝てしまおう。
 することもなく、アッシュにしたいこととか、アッシュしてほしいことばかりが思い浮かんで、そのまま夢の世界へ堕ちて行こうと決意したとき。
 ピピピピ、と電子音。
 机の上に置きっぱなしの携帯電話が、鳴って震えた。
 着信メロディがないのは、アッシュが其れを嫌ったからだ。だったらいっそアッシュだけそうすれば良い、と慣れぬ機械に悪戦苦闘しながら設定したんだ。
 いちいち画面を見なくてもわかるように。アッシュだと知覚できるように。
 だから、その無機質な電子音は、いつも愛しい。
 大慌てで寝台から飛び出し其れを手にする。開けたらすぐに通話。それだけのことが、とても時間が掛かった気がする。

「もっ、しもし!!」

 あまりの慌てっぷりに、電話の向こうで笑われた気がした。

( 文明の利器に本気で感謝する )


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