こんな時、傍に来てくれるアッシュは優しいと思う。
如何して来てくれたのかと問えば、顰めっ面のまま「お前が煩いからだ」と答えが返ってきた。そういえば、アッシュが前に言ってたっけ。
「……俺からも、一応繋がってはいるんだよな」
「雑音だらけの不安定なものではあるがな」
そう言って、アッシュは傍に来てくれる。
何も言わない。何も訊かない。そこまで甘やかされたら、きっと俺は駄目になるから。アッシュがそれを理解しくれてるのかどうかはわからないけど、やっぱりアッシュはそこまで甘やかさない。切欠だけくれて、あとは俺を待ってくれる。
その些細な距離感が、良いと思う。
「なんかさ、目が覚めると、真っ暗じゃん?」
「当たり前だ。夜だぞ」
「うん。……でも、目が覚めるときって、いっつも新月なんだ。だから、真っ暗」
「……」
「暗いのが怖いわけじゃないんだけど、やっぱり怖くってさ」
アッシュは俺の話を聞いてくれる。時々相槌を打ちながら、俺に手を伸ばしてくれて、俺の髪を撫でてくれる。やっと肩を超えた髪はアッシュの手に指に優しく撫でられる。口にした事はないけど、気持ち良い。
「……いろいろ思い出すからだと思うんだけど」
「……」
ああどうしよう。
泣きそうだ。
どうして?
そんなこと決まってる。
「俺が殺した人達も、真っ暗な中で死んだのかな、とか」
「俺が斬った人達も、真っ暗な中に落ちていったのかな、とか」
「俺が奪った沢山の命は、暗い中に居たりするんじゃないか、とか」
「俺はこうしてて、いいのかなって、思っちまう」
「……」
卑屈反対だとか、あの頃はよく言われたけど、卑屈自体は、脱したと思ってる。俺は俺だし、俺は喰らった命の分だけ確かに生きて誰かを幸せにしていかなきゃ詐欺だ。
だけど、
時々、思うんだ。
「家に帰れて、父上も、母上も、屋敷の皆「おかえり」って笑ってくれて、俺の為に泣いてる奴もいて、俺には俺の場所がちゃんと在って。…………、アッシュも近くに居てくれて」
やばい。
泣く。
結局いつも。
此処で泣いてしまう。
同じようなことを言って。
同じように泣きそうになって。
「俺、こんなにしあわせで、いいのかなって、思、って」
「……馬鹿が」
「うん。……俺、やっぱ馬鹿だよな……、こんなの、意味無い、てわかってるんだけど」
どうしても。どうしても。
割り切れない俺は、やっぱりまだ子供で、アッシュの言うとおり馬鹿で、あの頃言われたみたいな卑屈で後ろ向きで。
またアッシュに怒られるのかなって思ったけど、いつも黙って聞いてくれるから。
やっぱり俺は、甘えちゃうんだ。
手を伸ばして、アッシュの背に回すと、アッシュの手が俺を引き寄せてくれて、俺はアッシュの胸に顔を押し付けた。
「ごめん」
「……何がだ」
「わかんねえよ、そんなこと。……でも、」
「わかってる」
やっぱり、アッシュは優しい。
黙って聞いてくれる。黙って頷いてくれる。黙って頭を撫でてくれる。
「ごめん」
「ああ」
「ごめんなさい」
「……ああ」
「ごめんなさい、ごめんな、さい……っ」
ああ駄目だ。
我慢出来ない。
泣いて泣いて。
いつもと同じように。
声が出ないように、必死で堪えながら、泣いた。
( 許されぬ咎と伴に、眠れぬ夜を過ごす )
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