カランカラン、と扉についた鈴が軽やかに鳴って、ルークがミュウより少し小さい荷物を持って道具屋から出てきた。丁度道を挟んで店の前にあるベンチで、ミュウと遊びながら大きな荷物二つの番をしていたティアは其れに気づき、ルークの名を呼ぶ。

「ルーク」
「ごめん、思ったより長引いた。えっと、これで全部だよな?」

 一言謝ってから、ルークは荷物と呼ぶのも躊躇われる、片手で軽々持ててしまうその小袋をティアに見せる。ティアは持っていた買出し表と其れを交互に見て、最後に、

「……。ええ、これで全部だわ」

 と言うと、ルークは、ふぃー、と安堵の溜息を吐いた。肩の荷が下りた状態を絵にするとまさにこんな感じのだろう、とティアは思ったりした。ルークはティアの隣に腰掛けると、これ以上無いくらいの脱力状態をしてみせた。いつもなら咎める其れも、こんなに大量の買出しを終えた後だと気が引ける。
 心底不満そうな顔で、ルークが呟く。

「なんだって、俺の時はいつもこう多いんだよ」
「ですのー」

 自分は膝の上からミュウの同意の声がして、ティアはくすりと笑った。
 買出し当番というものは、大抵一人で済むものだとティアは思っている。というか、普通そうだろう。自分もガイもアニスもナタリアも、誰と連れ添って行くことはあるが、荷物の量というのは多くてもアニスが抱えきれる程度の紙袋一つだ。(ジェイドなんかは「私は年寄りですからねえ」と一度も行かない。ルークやガイに言わせれば「セコイ」らしい。……少し同感する。)
 「それがどうして、自分の時は、最低でも片手に一つずつ、合計二つ持たなければならないほどの量になるんだ」とルークは毎回憤慨している。以前など、嵩張ると目に見えているボトル系の薬品を道具袋に入るぎりぎりまで買わされていた。

「そう言わないの、手伝ってあげてるじゃない」

 子供をあやすような物言いに、ルークは一瞬だけむっ、とした表情をするが、どちらかというと拗ねたような顔になった。まるで子供のようだ。
 どうせ宿にいてもすることもなく買って出た手伝いだけれど、ころころ変わる彼の表情を見ていると、部屋でのんびりするより息抜き出来ている気がした。

「ってかいつの間にこんなに食材使ったんだ……」
「あなたがよく食べるからじゃないの?」
「……、お前な」

 苦い顔をするルークにティアは微笑んでみせた。すると彼は頬を緩めてから立ち上がって、「そろそろ行くか」と荷物を示す。確かに、此処で休憩を取り始めて、そこそこ時間は経っている。いい加減に帰らないとまずいだろう。
 ティアが首肯すると同時に、膝の上に載っていたミュウは地面へ降りた。一番大きな荷物をルークが持ったので、三つの荷物のうち、ティアはその次に大きな荷物に手を伸ばすと、

「……?」
「…………」

 さっ、と片手は既に荷物で塞がっているはずのルークが、其れを横から掻っ攫った。

「ルーク、どうしたの?」
「……お前はそっち持てよ」

 首を傾けて問うと、彼は当然だろうと言わんばかりの表情で、一番小さな、先程ルークが買ってきた小袋。
 軽いのは有難いことだが、それでは荷物持ちに付き合った意味がないのだろうか。これぐらいだと、ミュウでも持てるのではないかと思ってしまう。それでなくても、ルークが持っている荷物の上に乗せられそうなぐらいだ。
 先に歩き出したルークに小走りで近づく。

「ルーク、これじゃあ私が来た意味が無いわ。それに、二つは無理よ」
「平気だって。ホラ、行こう」

 聞いてみたところで、こんな感じだった。こうなると最初の頃から変わらず頑なな彼だから、納得できずにいてもそうするしかなかった。柄にも無く不貞腐れてみせてしまう。

「本当に、これじゃ、ただついて来ただけじゃない」
「それでいいんだよ。第一―――

 科白は、あまりにも予想外すぎて、足を止めてしまった。

「ティアに大きい荷物持たせるなんて、情けないだろ」

 さらりと言って、ルークは立ち止まったティアに気づかないまま、スピードを緩めもせず早めもせずそのまま歩く。ルークと伴に数歩先を行くミュウが其れをルークに知らせると、ルークは振り向いて、ティアの名を呼んだ。なんでもないわ、と一言詰まりながらも答えて、彼の隣……というより、少し前を行く。
 隣に居たら、気づかれてしまいそうだった。
 ルークにそんな風に気遣われたことが、嬉しいと思っている自分に。
 熱い頬に気づかないふりをしながら、ルークが不思議そうにしているのに気づいていないふりをしながら。
 晴れた昼下がりの空の下を、少し俯いたまま、ティアは足早に歩いた。

( なんて快晴。少しだけ嫌味だ )


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