「なんで」
ものすごーく不機嫌そうな顔。
一緒にお茶を飲んでいたティアは、ルークの顔を見てそうとしか形容できない。
彼はビシ!と同じ顔の片割れ―――アッシュを指差して言う。
「なんで毎日同じように起きて同じように飯食って同じように体動かして同じように寝てるのにお前の方が背が高いんだよ!?」
……、そんな理不尽な。
ルーク以外の全員が、そう思ったに違いない。
指を指された本人は、くだらないと言わんばかりの表情で彼を見やり、溜息を吐いた。
「くだらねえこと言ってねぇで、さっさと来い」
「くだらなくない!同じ生活してるのになんでお前だけ伸びるんだよ!」
「テメエの方が幾分だらけてるからだろう」
「お前だって昨日寝坊して父上に怒られただろ!」
「テメエなんざ毎日じゃねえか!!」
始まったら止まらないので、ティアも、ティアと同じように傍観に徹していたガイも溜息を吐き、少し温くなってしまった紅茶を啜った。
「相変わらずだなー……。仲がいいのか悪いのか」
「ものすごく仲良しだわ」
「「誰がだ!?」」
「……お前らだよ」
「…………」
もう一度、溜息を吐いた。
言い争いの末、ようやっとルークが剣を抜いた。いつもなら木刀で訓練するのだが、今日はティアがいる。数年前より弱まったとはいえ、治癒術が使えるのは確かだ。というわけで、
「うわー、あいつ等本当に真剣でやってやがる。下手すりゃ怪我するぞ」
「止めても聞かないのよ。私がいるから、多少の怪我があっても平気だけど」
訓練という名称の元、本気で真剣で剣舞どころか戦うのだ。
「ていうか、むしろティアがいるからだろうなあ。怪我できるから」
「……。来るの、控えようかしら……」
彼等が帰ってきてからというもの、ティアは頻繁に彼等に会いに来るようになった。彼等、というか、一番の目的である誰かさんは、自分が目的であることに気づいているかどうかはさておき。彼等の親友であるガイよりも頻繁にバチカルへ足を運んでいる。
そして、来る度に真剣試合。
「止めとけ止めとけ。放っておいたらますます喧嘩する」
「……居ても変わらない気もするわ」
剣がぶつかる音をBGMに、ティアは何度目かの溜息を吐いた。
結局。
今日のところは、アッシュの勝利で終わった。
アッシュはそのままガイとの訓練に入り、ルークはティアの治療を受けることに。
負けたことが気に掛かるのか、ものすごく恥かしそうな顔で、しぶしぶルークは治療を受ける。
「これで何敗目だったかしら?」
「……六十五敗目」
「とうとう負け越したわね」
「……う……」
少し前まではルークが一、ニ勝差で勝ち越していたのに、最近になってアッシュが勝つようになり、とうとうルークの黒星がアッシュの其れより多くなってしまった。ルークは言葉に詰まり、ティアは黙って治癒を施す。其の間も、BGMは金属音。
「……そういえば、如何して身長なんて気にしていたの?」
「いや、それは、その……」
二十歳を超えてこれから伸びるわけでもないだろうに、今更どうして気にするのか。ティアにはよく理解できない。オトコノコだからじゃないか、と先程ガイには言われたけれど。
「………」
「ルーク?」
表情を伺うと、顔を背けられた。何か拙いことでも言ったかと思いなおしていると、ようやっとルークが口を開いていくれた。
「笑うなよ」
「笑わないわよ」
躊躇いがちに、ルークはティアを見て、小さな声で言った。
「さっき、ティアとアッシュが並んだとき、身長差が……」
「……?」
「隣に並んだら絵になるから、羨ましかった……ん、だよ」
自分の頬が熱くなるのを、ティアは感じたし、
目の前にいるルークの頬が髪に負けないくらい赤いのを、ティアは見た。
それを直視するわけにもいかないので、俯いて彼の治療を続ける。
ルークもルークで、言葉が掛けられないらしかった。
「やっぱりオトコノコだからか」
「……俺をだしにイチャつきやがって」
「お、何ならナタリアに逢って来たら如何だ?眼も当てられないくらいイチャついて………、そんな睨むなよ」
手を止めて二人を見ているガイとアッシュには気がつかなかったけれど。
結局、ガイが声を掛けるまで、ティアとルークはそのままだった。
( 背比べ、とかしてみたり )
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