……困った。
 まあこんなことよくあることでしょう。
 とかなんとか、あの死霊遣いは言うに違いない。血が繋がってないとはいえ、嫌な義兄を持ってしまったものだ。

「陛下」
「……」
「へーいーかー?」
「……」
「陛下ー?」

 何度呼んでも、返事なんて返ってこなかった。最初から期待していたわけではないけど、なんていうか、もうちょっと反応を返してくれたっていいんじゃないか。
 後ろから抱き締められただけじゃ、何もわからないのに。

「陛下、話してくれないとわかりませんよ」

 貴方が如何して欲しいのかなんて、私に解るわけがないのだ。到底私は軍人。ピオニー九世皇帝陛下のいうなれば部下。今だって本当なら執務室に書類が溜まってるし、部下が困ってるし、ていうか私が困ってるんですが。
 優しく肩に押し付けられる陛下の額。
 少しだけ強い力で私を腕の中に収める腕。
 何もかも、子供が縋りつく其れのような、力と動作と、弱さ。
 ああ、こんな腕に期待してはいけないと、何度だって思ったのに。
 縋られては、甘やかすことしか知らないのだ、私は。

「放さなくても構いませんから、せめて話してくれませんか?」

 これも甘やかしている。
 この人、一体どういうつもりでやっているんだろう。

「……なら、離れませんから、放して下さい」

 また、沈黙。
 される前に、もう一言追加。


「でないと、私は貴方を慰めることも抱き返すことも出来ないんです、ピオニーさん」


 ぴくり、と
 其の腕が、反応した。

( 誰もいないのなら、それくらい、きっと )


back