「……俺って欲求不満なのかな」
「どーしたいきなり」

 心臓が飛び出るかと思った。
 ガイは飛び出そうだった心臓をなんとか押さえ、ルークに向き直る。寝台の上で枕を抱えて思い悩む彼は、まあ正しい十七歳といえるし、正しい七歳とも言えそうだった。

「んー、……昨日、夢みたんだ」
「なんだ、アッシュの夢でもみたか?」
「うっ、……う、ん…」
「お前、相当重症だな……」

 顔を真っ赤にして騒ぐルークに、彼を育て上げた父親兼親友兼使用人は、溜息と伴に呆れた。ルークは実年齢七歳児、好きなものは好きで好きでたまらない。けれどそんな我侭を言うほど子供でもない中途半端な状態である彼は、だからこそしまいこんでそんな夢もみるのだろう。

「実際お前達の仲ってどうなんだ?」
「実際って……、別に見たまんまだと思うけど」
「お前な、見たまんまだとアッシュがめちゃくちゃお前を嫌ってるみたいだぜ」
「うーん、でも二人で居るときもあまり変わんないな。眉間に皺は寄ってるし、不機嫌そうだし、口は悪くて相変わらず屑屑言うし、俺も其れに乗って喧嘩腰になっちまうし、ていうか喧嘩別れするし」
「……お前それで良いのか?」
「……良いってわけじゃないけど、俺達ってそんなもんかなあって……。それに、」
「それに?」

 訊くとルークは、どこぞの乙女のような顔で照れ出した。枕を抱きなおし、膝を立たせて俯いて、ぼそぼそと言う。

「いつもより話聞いてくれるし、話してくれるし、……なんか優しいんだよな」

 その照れ笑いは、如何見ても幸せそうで、
 まあ幸せならいいんじゃないか、とか思ったので、そのままルークにそう伝えて、ガイは彼の部屋を出た。


 寝台の上に、一人寝転がる。
 ここんとこ、ジェイドが気を遣いだしたみたいで、部屋割りはいつも俺の一人部屋。ティアも気づいたのかいつもミュウを連れてってくれる。
 でも肝心の鮮血の彼は現れないことが多く。
 しかもなんか朝になると顔に出てるらしく、心配される。
 別に来ないのが当たり前で、来る方が本当は可笑しくて。
 来たら来たで、別に何をするわけもなくて。
 殆ど何もしなかったり、時々話したり、そんな感じで。

 それでも来てくれないかな、とか思ったりしてて。

 今日は、来るかな。
 ……、今日も来ないかな。

「……アッシュは何で来てくれるんだろ」

 考えても仕方が無いので、そのまま眠った。

( どれだけ焦がれても、待つしかなくて )


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