高木律様
遺書だぜ。びっくりだな。この俺が、遺書だって。
まあ、遺書なんて死期を悟ってから書く様なものだよな。一般的に。別に俺は死期を悟っているわけじゃないぞ。なんつーかな、たとえば、詰まらない授業の最中に、詰まらない落書きを、詰まらないプリントに、「詰まらない」といわんばかりの態度で、実際詰まらないと思いながら書くような、ただの暇つぶしだ。
だから、まあ、その。なんだ。あんまり深読みすんな。とりあえず、暇つぶしに(其の時間を使って働け、とか禁止)書いているだけだから。其れを忘れるなよ。
これを読むとき、俺本当に死んでんのかな? てお前に聞いても意味無いか。読んでるってことは死んでる確率が高いもんなあ。それとも、お前が先に死んでいて、お前の棺に俺が入れてるのかもな。お、そりゃあいい。お前の棺に、俺の遺書。不可解で意味不明で不明瞭で、なんて俺達に相応しいんだろう。
そう思わないか、律。
つか、なんで俺はお前宛に書いてるんだろな。
多分、お前しか思いつかなかったんだろうな。(分かってるなら聞くな、とか禁止)結局、俺には親も兄弟も子供もいなかったし、友人なんて危なっかしくて作れないし、お前しかいなかった。
お前だってそうだろう。
信じるなんて、くそくらえだ。
話がそれたか。
だから、その、まあ恥かしい科白だな。こりゃ。年頃の人間が異性に言っていい言葉じゃないが。
とにかく、俺が遺書を書く相手は、お前しかいなかった。
どうして遺書を書くのか、と今思った。
今なんですか、とかお前言いそうだな。しょうがねえだろ、今思ったんだから。
まあ、俺が気になったのは、『どうして俺が』じゃなくて、『人はどうして』って意味だ。
お前は如何思う?
死んで何も残らない。金も身体も気持ちも意思も。残るのってったら、生きていない身体と死亡証明書ぐらいだろ。もしくは遺産とかな。
なのに、何も残らないのに、どうしてこんなもの書くんだろうな。
俺にはわかんねえ。
お前に分かるかな?
俺が死んで、これを読むお前に、答えは出せるか?
まあ、どっちでもいい。出せようが、出せまいが、俺はもう死んでるんだからな。
なあ律、どっちでもいいとは思うんだけどよ。
俺は、お前に答えを出して欲しいと思うよ。
なんでかって聞かれたら、困るけどさ。
なんとなくってやつだ。いやー、便利な言葉だな、「なんとなく」、て。
俺達は、―――言い方が悪いな―――俺は、知っての通り、散々やったよ。絞めたり刺したり撃ったり殴ったり圧したり斬ったり、いろんなことをした。とにかく何でもやった。
そんな俺がさ、こんなものを残すなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
正直吐き気がするな。こんな行為。
でも、どうしてだろうな。
いくら暇だからってさ、俺、お前に遺書書いてるんだぜ?
自覚なくて、もしかして明日には死ぬのかもな。死亡フラグだ。死亡ルートきたこれっ。
まあそれでもいいか。元々この歳まで生きてる時点で、驚きな気もするし。
なんかまとまりなくなってきたなー……。
なあ、律。
お前は生きてるか?
俺は、死んでるか?
お前は呼吸出来てるか?
俺は息できてんのかな?
お前は、相変わらず後ろ向きに生きてるか?
俺は、相変わらず前向きに死んでんのかな?
なあ、律
俺は、最後まで、嘘吐きだったかな?
なあ、律
お前は、
やっぱ止め止め。いつかちゃんと話すさ。お前が読む前に、多分話していると、思う。
じゃー、こんなもんか?つかこれ以上無理だ。悪い。
つかこういうことするガラじゃねぇんだけどなー……。まあ、ただの暇つぶしだから、気にするな。
じゃな。
倉橋光輝
( こんなものがあったなんて )
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