「――」

 ルークは愕然としていた。
 渡された紙切れ一枚。それでこれだけ驚く事があるとは思いもよらず。一体全体どうしたことだろう。こんなことがあるのだろうか。もしかして自分は今夢を見ていて、このまま席に戻ったら、すとーんと椅子から踏み外すっつか座り外したりして自分の部屋の寝台から落ちて目が覚めて、ひいてはまたしても学校に来て真実に落ち込むんじゃないだろうか。
 とにかく。
 そんなトランス状態で、ルークは家路についた。





「ああああああアッシュ!アッシュ居る!?何処!!??っつか居ねえの!?」

 家の鍵を開ける寸前で覚醒し、猛烈な勢いで鍵をあけて家に入る。一緒に住んでいる赤毛はすぐには見つからず、どたばたしていると、

 ごすっ

「いっ!!!!????」
「うるせえ騒がしい騒々しいうざってえ」

 そうとうな罵詈雑言と本の角を喰らう事になってしまった。
 最早反論する事も反抗する事も出来ずにうずくまり、ルークは唸った。

「角……角、痛い……割れる……!」
「んなので割れるようじゃ随分軽い頭してんだな、テメエは」
「……軽っくねえ!お前、ちょ、これ見てみろ!!!」
「は、なんだ?」

 ぴらり、と差し出された紙切れ一枚を手にとって見てみると、アッシュは目を疑った。

「すげーだろ!?俺本っ当にビックリした!」
「誰かのと間違えてんじゃねえのか」
「違う!確認取った」
「じゃあ担任の入力ミスだ」
「それも違う!!」
「眼の錯覚だな」
「お前な!!!」
「わかった煩い耳元で騒ぐな」

 そう嗜めて、アッシュはもう一度その紙に印刷されている信じがたい情報に眼を通す。
 其の紙の一番上に書いてあるのは、成績表の文字。もっと言うなら其の右上に学校の名だとか校長の名だとかがあるのだが気にする必要はまるでない。
 その下の、曰く成績。
 ルークの去年の其れといえば、悪すぎるわけでもないのだか決して良いほうでもなく言うなれば中の下あたりをふらふらしていたのだが。

「なあなあ、すごくね?俺ってやれば出来る子!?」
「じゃあ今まで真面目にやってなかったんだな」
「あうっ……」

 いきなり中の上まであがっていた。補習はぽつぽつあるが、それでも十分に良いといえる成績だ。

「俺こんな良い成績取るの初めてだぜ!アッシュのおかげだな!」
「……ふん」

 アッシュがルークの成績表を初めて見たのは、昨年末の其れだった。それはもう、アッシュからすれば非常識な数字の羅列で、いくらなんでもファブレ家の人間がそれじゃあ拙いと毎日最低でも二時間は家庭教師をしてしごいてやった。
 その結果が、これ。
 素晴らしいものだ。
 もともとルークの言うとおり、彼は「やれば出来る子」の要素はあったし、あとは教科書に向かう気力と集中力さえあれば問題なかったのだが。その気力と集中力を無理矢理つけたおかげでの成績のようだ。

「よかったー、去年よりはいい夏休みになりそう!なあ、アッシュ、どっか行こうぜ。遠出しよう!」
「前もそういって補習ですっぽかした奴がいたがな」
「ううう煩いな!とにかく予定立てようぜ!海でも山でも!」
「そのうちな」
「えーっ今!今しよう!」

 騒がしい夏休みになりそうだった。

( 眩しい日々の始まり )


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