小さい手だと思う。
 十七という年齢を考えると、やっぱり青年男子としては少し小さいのではないだろうか。確かにスリを日常としていたのならばこの大きさ、むしろ小ささは便利なのかもしれないけれど。
 こんな手でナイフの類なら問題は無いが、剣やら斧やら持たれた日には肉刺が出来ている。実際、今も潰れた其れの面倒を見ているわけだし。金輪際こいつの装備を凡てナイフに固定してやろうかとも思う。
 第一、自分の手にすっぽりと収まってしまう。
 良いことなのか悪いことなのか。
 勿論、自分としては断然いい。いろいろと便利というもの。ただ本人はそれを気にする。まあ其の歳の男の子なんてそんなもんだろうが、意地やらプライドやら矜持やら、とにかく同じ男として競争心のようなものがあるようだ。
 それはこちらとて同じ事。
 年下の、少なからず想っている相手に。
 負けるわけには、いかないのだから。

「……バルフレア」
「ん?」
「ちょっと、痛い」
「我慢しろ」

 我慢しろと言われたところで、潰れた肉刺が痛くなくなるわけも、治療の刺激が減るわけでもない。仕方の無い事と解っていても、ヴァンは痛くてしょうがない。
 ……ていうか。
 あんまり、その、近いと、怖い。
 ヴァンにとって、この男、バルフレアという男は。
 危険人物にして既に猥褻物。
 いつ何をされるかわかったものじゃない。
 周囲に誰か居ればそんなことはまるでないし、戦闘とか、旅路とかでは、(本人には決して言いたくないけど)頼りになるし、シュトラールを運転してるときとかは……様になるというか、格好良いというか。正直、こういうところは憧れるし、尊敬する。
 けれど、二人きりで居るのは本当に危険だ。

 今とか、今とか、……夜とか……。あー…情けねー……!

 バルフレアのことは、すきだ。
 大きい手に触れられていると、……情け無い話だけど、ドキドキしたり、する。
 自分の手が彼より小さいことを思い知らされ敗北感も味わうが、
 其れを忘れるくらい、安心できる、手。
 多分、一番すきなところ。

「っし、お疲れさん」
「ん」
「治るまでは待機組だな」
「……うう、やっぱり?」
「それで前に出たって邪魔ってもんだろ」

 自覚があるらしく、ヴァンは素直に頷いた。
 しかし、小さい。
 こんな手を引っ張っていかねばならぬと思うと、少々気苦労が絶えないだろう。
 けれど、

「バルフレア」
「なんだ?」
「ありがと、な!」

 ああ、やっぱり。
 かなりハマっている、俺は。
 可愛いとか、笑えんじゃねえか。

「……礼も無いのか、ヴァン」
「へ?」

 ぐい、と手を引かれて。
 キスされた。

「はっ?」
「おいおい、治療してもらってこれだけか?」

 驚いてすぐに離れたら、そう言われたので、
 負い目がある分、ヴァンは素直に従ってしまった。

( あたたかいそれ )


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