「ありらりら、こんなところにこーんなものが」

 飄々と光輝が言った。黒い細身の其れは、使ってないとはいえ手入れは欠かしていないから、そんな簡単に振り回されたら危ない。何処から出してきたんですか。そう言うと、

「お前の部屋の机の引き出し」
「勝手に人の部屋に入って勝手に机の引き出し空けて勝手に漁って勝手に出してこないでください」
「まあまあ、そう怒るなって」

 安全装置が掛かっていることを確認して、光輝は私に向けて打つような仕草をする。ぱん、と口で言って、真っ直ぐ私に向けられた腕が肘の処から上がる。
 細身の其れは硝煙など吐かず、ただただ黒光りするだけだった。

「手入れは?」
「してありますよ。分解掃除、序でに弾も込めてます」
「うわーお。銃刀法違反じゃん、律」
「貴方に言われたくないですね」

 そう返すと光輝は肩を竦めて、妙な笑い方をした。まったく、この人というのは。
 突然帰宅路に現れたかと思えば突然共同生活を言い出し共同どころか私が住まわせてやっているようなこの状態を強引に顕現させたこの倉本光輝には、呆ればかりが感じられる。

「これ、あん時のだろ?」
「ええ」
「大事にしてあんのな」
「手持ちの武器が今のところ其れしかないので」
「……お前まさか、ガッコに持ってってるんじゃないだろうな」
「学校に持って行ってますよ。持ち物検査なんかあったら、そこらの女子高生よりえらい目に合いそうですね」
「………覚悟してるなら、いいか」
「ですね」

 其れから、つと光輝は黙り込んだ。其の方が、私としては昼食の準備が進むから嬉しいことだけれど、ちらりと光輝に眼をやれば、珍しく感慨深げな眼で光輝が、じ、とその銃を見詰め続けた。
 細身のシルエットの、黒いボディ。
 あの日、二人で、逃げ出した時、手にしていた唯一の。
 其れを、光輝は、私が声を掛けるまで、見詰め続けた。

( こんな小さなものに頼って生きてきた )


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