「国際電話は、高いんじゃないの? 冥たん」
「其の呼び方、いい加減改めなさい!」

 はいはい、と軽く了承して、受話器の位置を変える。両手が開かないと御飯は作れないもの。肩と耳で頑張って挟む。こういうときに、携帯電話に掛かってこなくてよかったなあと思うわけで、なんたって携帯電話はもう凡てと言って良いほど薄く、肩と耳で挟むにはかなり厳しいのだから。

「……久しぶりね。もう、二ヶ月ぐらいかしら?」
「――」
「どう、何か変化はあった?」
「……貴方に、関係ないわ」
「んもう、つれないなあ、相変わらず。私達、友達なのに」

 そう笑うと、向こうから怒りの声があがる。本当、電話でよかった。面と向かってたら、私は確実に鞭の餌食だ。あるいは、居間で寛いでいる尖ったほうの誰かさんが、代わりに打たれるのかもしれないけれど。

「それで、どうしたの?いきなり、しかも私に、電話なんて」
「それはっ……、その」
「私の近況が聞きたいわけでもないんでしょ?」
「聞きたくないわ」
「……なんでこう、君の言葉には、労りとかそういう類が無いのかしらね」
「フン。労る理由がないからよ、

 ようやく調子を取り戻してきたようだ。まあ、最初にあの挨拶だと、乱れるのもしょうがないけれど。
 台所から少しだけ顔を出して、ビールをかっくらっている二人を見る。一人足りないのは、今度は彼女とメキシコかどっかに行ったからだ。この度は置いていかれる事はあまり無い、奇跡だと思う。しかしいつまで続くのやら、と心配にもなるが。
 他愛ない話をしている二人を見ると、くすりと笑ってしまった。

「冥」
「……何かしら」
「電話、代わろうか?」
「! そ、其処に居るのね!?」
「え? 誰が?」
「――!!!」

 彼女の慌てぶりが可笑しくて、笑ってしまう。向こうはきっと顔を真っ赤にしてるんだろう。鞭が無いのなら、是非眼にしたいものだった。これだから、狩魔冥をからかうのはやめられない。……根性曲がってるな、私。

「冗談よ。どっちがいい?」
「どっち……?」
「赤い検事さんと、青い弁護士さん。今日はたまたま私の家で呑んでてね、二人とも揃ってるけど」

 どっちがいいかしら?

 我ながらひどいことしてるなあ、とは思いつつ、やっぱり狩魔冥をからかうのはやめられない。そろそろ電話の向こうは限界だろうし、つまみも出来た事だから、答えさえ寄越せば快く代わってあげることにした。
 寄越せれば、だけれども。
 我ながら、ひどいことをしている。

( for your love )


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