ぱっと舞った其れは、思ったよりも紅かったから、少し驚いた。
 手を当てればぬるりとした触感。
 其の手にあるのは真っ赤な色。
 そう思ったら、すぐに床に倒れこんだ。こうして床に倒れる事すら不思議な事のように思えて、浅く浸すようにある床の水面に、拡がっていく色を見て、自分の言ったことはあながち間違っていなかったことを知る。
 ――― 俺の眼と 同じ 色だ。

「……、ダークっ!!」

 言えば、お前は否定したけれど。

「ダーク、ダーク!」
「聞こえてる。そんなに、呼ぶな」
「……、如何しよう、こんなに、血、出て」
「泣く、なよ。もう無理だ」
「……っ!」

 泣くなって、言ってるのに聞きやしない。そうだ、言うことなんて、聞いたためしがないじゃないか。勝手な事を言う。奇麗事ばかり、口にして。
 こんな奴が光ならば、自分は何処までも暗くいられるのだろうと思った。
 眩しいから、尚更、影も濃くなって。
 だからこそ、惹かれたのだと、思う。

 光を反射して輝く髪も。
 空みたいな色した眼も。
 凡てが凡て 俺が焦がれる何かだったから。

「勝ったのは、お前だ。お前が泣くこと、ないだろ」
「負けたからって、ダークは、泣かないじゃないか」
「誰かが泣く必要なんて無い」
「……―――僕には、泣く権利が、あるよ」
「?」

 あたたかいと思う。
 降ってくる雫が、奴の腕が、体温が。

「僕は、君が、好きだから」
「……そうか」

 だからって。
 泣かせたいわけじゃない。
 哀しませたいわけじゃない。

「リンク」

 呼ぶと、涙を溜めた瞳が俺を映す。
 あの空色に。
 真っ赤な血が映る。

「そんな顔、するな」
「無理だよ」
「即答するなよ」

 俺は消えて、お前に戻る。
 それだけのことだ。
 七年の時間をかけずに成長してしまったお前に生まれた矛盾は
 ようやく境界線が薄れて消えてお前に戻っていく。
 消化して 昇華して 戻っていく。
 当たり前のことだから。

「泣くなよ」
「……、っ……」
「泣くなって」

 俺はお前がいないときっと生きられないけれどしないけど
 お前は俺がいなくても生きていけるから
 単なる足し算と引き算と、それだけだ。

 俺がもつのはこれだけで十分だから。
 お前の傍に居れてよかったから。
 そう、
 お前に出会えて嬉しかったんだ。

 だから、
 これは出会えた証だから。
 その終わりだから。

「……ダーク」
「―――」

 呼ばれて唐突に理解する。
 ああ、そういうことか。

 落ちてくる雫も、掻き抱く腕も、押し付けられる胸も
 ―――これは、俺の、証なんだ。

( 君に出会えた奇跡胸の中 )


back