「アッシュ、「きす」しよ!!」
「!!!」
「へ? あ、アッシュ? 大丈夫か? つーか其れ報告書じゃねえの?」

 アッシュは飲んでいたコーヒーを書き上げたばかりの報告書に吹いてしまった。
 ルークが何処かに出かけていた間に、つまりは静かな間に済ませてしまおうと黙々と仕事をこなし、終えたところで憩う為にコーヒーを飲んでいたら、この事態。一体この無知かつ無防備故に破壊力だけは抜群な少年は、今度は何処でそのような武器を手に入れてきたのだろうか。

「……一体何処の誰からそんな破壊力絶大な爆弾を入手してきた」
「?」
「誰から……「キス」なんていう言葉を聞いてきたんだ」
「アリエッタとディスト」

 其の単語を出すまでにアッシュはかなりの時間を要したが、何とか紡ぎ出せた。それに変な顔をしつつもルークは答えてみせる。出てきた答えに、アリエッタはともかくディストはしめてやろう、とアッシュは心に誓うことにした。

「なんだ、嫌なのかよ」
「……どういう行為か解っているか?」
「うん。だって好きな人とするものだってディストが言ってたんだ!」
「…………そうか」

 はあ、と長い長い溜息を吐いてから、何とかアッシュは返答する。何が如何してそう会話になったのかはもう知らない。ディストはザレッホ火山の火口に縛り上げて捨てに行くとして。
 如何して六神将にはまともな人間が居ないのだろうか。全員がルーク馬鹿ではないか。シンクやラルゴですら、である。……自分も含めて。そう後付できるほどにはアッシュは自分というものがわかっていた。

「したいのか?」
「うん。俺、アッシュ大好きだし!」

 こうもあけすけに気持ちを口にされると、もう頭が痛くなる。本当に、何をどうすればこの子供相手にそんな話題になれたのか、知りたい気もするが遠慮しておく。

「アッシュは「きす」するの嫌なのか?」
「……、」
「俺のこと、嫌いとか?」

 ……。
 ああもうだからそんな顔しないでくれ!
 泣きたいのはこっちだ。そんな涙腺機能させてんじゃねえ実際きつい状況なのはこっちなんだよこの屑が!

 簡単に気持ちが口に出来たら苦労しない。

 ルークを説得しその望んだ行為を回避するのに、アッシュは二時間掛かった。

(馬鹿の相手は疲れる)


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