朝。目が覚めるとまず初めにやったことは、天井を見詰める事だった。寝相はいいから、恙無く天井とご対面出来る。それだけで知る事が出来る。自分が何処に居るのか、理解し、ああ矢張りこんなことは無駄だと、後悔する。
 どんなににらみつけたところで、天井は何を返事するわけがない。此処はあの家ではないし、あの子が、あの子達が居るわけが無い。見慣れた天井は無慈悲の象徴だと、そう理解するのに時間もかからなかった。
 それでも、無駄に時間を使い確認せずに居られなかったのは、もう十年――ああそう、もう十年だ。それだけの時が経ったというのに、未だ未練があるからだろう。
 あの家、家族、幼馴染。
 想い馳せなかった日は、多分無い。言い切れないのは、其れがあまりに日常的になってしまっている気がするからだ。呼吸と同じだ。意識していない、意識せずに行う迷走だから、昨日もこの日と同じように、目を覚ましてすぐに考えたかもしれない。一人ぼんやり本を読んでいる其の時にふと思い出したかもしれない。雨上がりの、じんわりとしたけれど清冽な空気を、あの子は好きだったなと思い返したかもしれない。女々しい事だ。らしくない。
 まあ、そんなことを言ったって、仕方ない。
 自分の世界は今いる此処以外にないのだ。俯いていても何も出来やしない。足元にあるのは、此処以外の何物でもない。

「以上、瞑想もしくは妄想いっそ戯言終了」

 間延びしながら起き上がる。
 相変わらず『あの家』ではない別の『場所』。そして、其処から、相変わらずあたしの一日は始まるんだから、何を言ってても仕方ない。

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